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IFCで設備モデルを受け渡すときに失われる情報と回避策
CAD/BIMナレッジデータ構造

IFCで設備モデルを受け渡すときに失われる情報と回避策

IFCで設備BIMモデルを受け渡しする際に失われやすい情報(システム接続、パラメータ、ジオメトリ詳細)と、その回避策を実務目線で整理。IFCスキーマの選択、プロパティセット設計、受け渡し規約の事前合意が肝になります。

長谷川一夫

機械設備設計部

公開日
更新日

BIMモデルを事務所間や職種間で受け渡すとき、「IFCで出力して提出してください」と言われることがあります。ところが、いざIFCで受け渡してみると、元モデルで使えていた情報の多くが失われてしまう、という事態に遭遇します。「数量拾いに使おうとしたらパラメータが空だった」「ダクトのシステムがバラバラになっていた」といった声は、設備BIMの現場でよく聞かれます。本記事では、IFCで失われやすい情報を具体的に整理したうえで、出力設定・確認手順・事前合意という三つの観点から実務的な回避策をまとめます。

IFCとは何か

IFC(Industry Foundation Classes)は、buildingSMART Internationalが策定・維持している、BIMモデルをソフト間で受け渡すための国際標準フォーマットです。Revit、Rebro、ArchiCAD、Tfas、GLOOBEなど、主要なBIM/CADソフトがこのフォーマットでの出力(エクスポート)と読み込み(インポート)に対応しています。

IFCの最大のメリットは「ベンダー中立」であることです。特定ソフトのネイティブ形式(.rvtなど)と違い、相手がどのソフトを使っていても開けるため、公共工事やゼネコンのプロジェクトでは提出フォーマットとしてIFCが指定されることがよくあります。ただし「開ける」ことと「元の情報がすべて残る」ことは別問題です。IFCはあくまで中間フォーマットであり、各ソフトのネイティブ機能をそのまま転写できるわけではない、という前提を理解しておくことが重要です。

なぜIFCで情報が失われるのか

情報が失われる根本的な理由は、IFCが「全ソフトの全機能の最大公約数」ではなく、「共通して表現できる範囲に翻訳する」フォーマットだからです。出力側のソフトは、自分のネイティブデータをIFCのスキーマ(データ構造の定義)に当てはめて書き出します。このとき、IFCスキーマに対応する受け皿がない情報は、捨てられるか、別の形(テキストやジオメトリ)に変換されます。さらに読み込み側のソフトも、IFCの全要素をネイティブに復元できるとは限りません。つまり「出力時」と「読み込み時」の二回、情報が目減りする可能性がある、ということです。

IFCで失われやすい情報

1. システム接続情報

RevitやRebroでは、ダクトや配管は「システム」として論理的に接続されており、起点から末端までの流路がデータとしてつながっています。ところがIFC出力すると、この接続関係が失われ、個々の要素が「ジオメトリとしてのダクト管」にフラット化されてしまうことがあります。見た目はつながっているのに、データ上は単なる形状の集合になっている、という状態です。この結果、受け渡し先で系統ごとの集計や圧力損失計算、自動的な経路追跡ができなくなります。IFC4ではIfcDistributionSystemやポート(IfcDistributionPort)によって接続を表現できますが、出力設定や受け渡し先の対応状況によっては正しく引き継がれないため、過信は禁物です。

2. パラメータ(属性情報)

社内で設定したシェアパラメータ(共有パラメータ)名がIFC出力時に変わったり、数値データがテキスト型に一括変換されたりすることがあります。たとえば「型番」のような文字列パラメータは比較的残りやすい一方で、「設計収容荷重」「定格風量」のような数値パラメータは、項目名としては見えているのに実データが空になっている、というケースが起こります。原因の多くは、どのパラメータをIFCのどのプロパティセットに載せるかというマッピング設定が、出力側で適切に行われていないことにあります。また、単位(m3/h、kPaなど)の扱いが受け渡し先でずれて、数値だけが残って単位が抜ける、という落とし穴もあります。

3. ジオメトリの詳細とパラメトリック性

ファミリ(コンポーネント)のパラメトリックな押し出しやスイープは、IFC出力時に「静的な形状データ(ブレップやテッセレーション)」にフラット化されます。その結果、受け渡し先でサイズや寸法パラメータを変えても形状が追従しない、という事態が起きます。元のソフトでは「径を変えれば全体が自動で更新される」インテリジェントな部材だったものが、IFC経由では「変更できない置物」になってしまうイメージです。さらに、出力時のジオメトリ表現の選択(軽い近似形状か、詳細な正確形状か)によって、見た目の精度やファイルサイズが大きく変わる点にも注意が必要です。

4. 分類・要素タイプの取り違え

見落とされがちなのが、要素がどのIFCクラスに割り当てられるか、という問題です。本来は機器(IfcEnergyConversionDeviceなど)として扱いたいものが、汎用部材(IfcBuildingElementProxy)として出力されてしまうと、受け渡し先での絞り込みやフィルタ、数量集計の対象から外れてしまいます。マッピングが曖昧なまま出力すると、形は正しいのに「種類が分からない要素」が大量に生まれることになります。

回避策その1:IFCスキーマとビュー定義を正しく選ぶ

IFC出力でまず押さえたいのが、スキーマ(バージョン)とMVD(Model View Definition=用途ごとのサブセット定義)の選択です。設備モデルであれば、IFC4のReference View、もしくはIFC2x3のCoordination View 2.0を選ぶと、設備情報が保たれやすくなります。新しいIFC4は設備のシステムや属性の表現力が高い一方、受け渡し先が古いソフトだと読み込めない場合があるため、相手の対応状況を必ず先に確認しましょう。

ポイントは「最新だから良い」「情報量が多いほど良い」とは限らない、ということです。受け渡しの目的が干渉チェック(コーディネーション)なのか、数量積算なのか、維持管理データの引き継ぎなのかによって、必要な情報も適切なビュー定義も変わります。目的を先に決め、それに合うスキーマとビューを選ぶ、という順番が大切です。

回避策その2:プロパティセットのマッピングを社内で整える

属性情報を確実に残すには、プロパティセット(Pset)のマッピング設定を社内で整備しておくのが効果的です。Revitであれば「IFCエクスポーター」の設定ファイルで、どのパラメータをIFCのどのプロパティに載せるかを定義できます。ここを一度きちんとチューニングしてテンプレート化しておけば、IFC出力しても「型番」「メーカー」「定格能力」といった重要情報が安定して保たれます。

このとき、IFCが標準で定める設備機器向けの標準プロパティセット(Pset_で始まるもの)に、できるだけ寄せてマッピングするのがコツです。独自名のプロパティに入れると相手のソフトで自動認識されず、結局「どこかにはあるが見つけにくい情報」になりがちです。標準Psetに載せておけば、受け渡し先でも素直に拾えます。数値については単位の扱いも合わせて検証し、出力後に値と単位の両方が残っているかを確認しておきましょう。

回避策その3:受け渡し先のソフトで読み込み確認する

IFCを出力したら、必ず受け渡し先のソフト、あるいはIFCビューアーで読み込んで中身を確認します。出力側の画面では問題なく見えていても、第三者の環境で開くと情報が欠けている、というのはよくあることです。確認しないまま提出すると、下流工程で「情報が足りない」と指摘されたときには手戻りが大きくなりがちです。

確認には、無償のIFCビューアー(例:BIMvision、Solibri Anywhere、usBIM.viewerなど)を使うと、相手と同じ「中立な視点」でモデルをチェックできます。形状が崩れていないか、機器の属性が入っているか、系統や階・室の情報が保持されているかを、チェックリスト化して毎回同じ手順で確認できるようにしておくと、属人化を防げます。可能であれば、buildingSMART公開のIFC検証ツールでスキーマ適合性をチェックしておくとさらに安心です。

回避策その4:受け渡し規約を事前に決める

最も重要なのは、技術的な小手先よりも「IFC受け渡し規約」を受注・発注間で事前に取り決めておくことです。後から「情報が足りない」と揉めるケースの多くは、そもそも何を残すべきかが共有されていなかったことに起因します。具体的には、次のような項目を着手前にすり合わせておきます。

  • どのIFCスキーマ・ビュー定義を使うか(IFC4 Reference View など)
  • 必須で保持すべきパラメータの一覧(型番、能力、系統名など)とその載せ先Pset
  • システム接続情報が必要か、どの程度の精度を求めるか
  • 座標系・基準点・単位の取り決め(位置ずれ防止)
  • 受け渡しの頻度・タイミングと、確認の責任分担

これらをBIM実行計画書(BEP)に明記しておくと、関係者全員が同じ前提で作業でき、受け渡し後のトラブルが一気に減ります。規約は一度作って終わりではなく、プロジェクトの初期に試験的な受け渡し(ピロット)を一度行い、想定どおり情報が保持されるかを検証したうえで確定させると、より確実です。

出力前後のチェックリスト

実務では、次のような簡易チェックリストを用意して毎回なぞるだけでも、失われる情報を大きく減らせます。

まとめ:スキーマ・プロパティセット・事前合意

IFC受け渡しは便利な一方で、設定を誤ると重要情報が静かに失われるリスクがあります。鍵になるのは、目的に合ったIFCスキーマ・ビュー定義の選択、標準Psetを意識したプロパティセットのマッピング、受け渡し先での読み込み確認、そして受け渡し規約の事前合意という四つです。とりわけ、技術設定だけに頼らず「何を残すか」を関係者で先に決めておくことが、手戻りを防ぐ最大のポイントになります。これらを習慣として組み込めば、IFC受け渡しのストレスは大きく減らせるはずです。