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BIMで設備設計の工数は本当に減るのか|減る工程・増える工程を実務で分解する
CAD/BIMナレッジ導入

BIMで設備設計の工数は本当に減るのか|減る工程・増える工程を実務で分解する

「BIMにすれば工数が減る」というベンダー記事に違和感を持つ設備設計者向け。設計工程を「減る工程」「むしろ増える工程」に分解し、立ち上げ期と安定期の工数推移、工数に表れない価値まで、ROI計画に使える形で正直に解説します。

長谷川一夫

機械設備設計部

公開日
更新日

はじめに|「BIMにすれば設計が楽になる」は本当か

BIMベンダーや導入事例記事では、「BIMにすれば工数が減る」「やり直しがなくなる」というメッセージが目立ちます。一方、設備設計の現場からは「BIMにしたらむしろ工数が増えた」「見積りに入らない作業が増えた」という声も常に聞こえてきます。

どちらが正しいのか。結論から言うと、「減る工程」と「むしろ増える工程」が明確に両方存在します。本記事では、設備設計の主要工程を「企画・基本設計」「実施設計」「調整・成果品」に分け、どの工程が減り、どの工程が増えるのかを、実務目線で正直に分解していきます。

前提|工数を語るときに混同してはいけないもの

「案件ごとの工数」と「事務所全体の工数」は別物

BIM工数の議論がもつれやすい一番の原因は、「1案件あたりの工数」と「事務所全体の工数」を混同してしまうことです。事務所全体で見れば、BIM導入初年度はテンプレート整備・ファミリ作成・教育といった「設備投資」の工数が上乗せされます。

一方、1案件あたりで見れば、明確に減る工程も存在します。このふたつは分けて見ないと、議論がずっとかみ合わないまま進みます。

「1案件目」と「5案件目」で見え方が違う

同じ事務所の中でも、BIMで初めて進める「1案件目」と、テンプレートやファミリがそこそこ揃った「5案件目」では、同じ規模の案件でも工数の見え方が全く違います。BIMの工数は「何案件目か」の関数で語るべきもので、ひとつの案件だけを見て「多い」「少ない」を議論しても、それは事務所全体の判断材料になりません。

明らかに減る工程|BIMにすると楽になるもの

①作図の「差し替え作業」

2D CAD時代の設備設計で、もっとも人月を食うのは、意匠変更による「平面・立面・系統図の三重修正」です。BIMにすると、平面を修正すれば系統図も連動して更新されるため、この工程は明らかに軽くなります。

「何度も同じ作図をやらないで済む」ことは、現場の体感としても大きなメリットです。意匠変更が多い案件ほど、ここの差は大きくなります。

②数量拾い・集計

機器数量・ダクト・配管・コンセントといった拾い作業は、BIMではタグ付けが適切にされていれば、集計表をボタンひとつで出せるうえ、修正とも自動連動します。見積もりや取合い資料の作成工数は、体感としては半分以下になるケースもあります。

この効果は地味に見えて、年間で積もるとかなりのインパクトになります。「提出直前の拾い直し」が消えるだけでも、設計者の夜間作業は明らかに減ります。

③外部審査・社内チェック後の修正・出し直し

例えば打合せで「ここのダクト、上に上げて」と言われたとき、BIMでは該当部品を動かすだけで、それを含むすべての図面・パースが連動して更新されます。

2Dであれば「平面だけじゃなくて系統も直して」という話になるところが、一括で修正できる。現場のストレスを明らかに下げる効果もあります。

むしろ増える工程|BIMにして初めて発生する作業

①テンプレート・ファミリの整備

これが導入初年度の最大の重さです。設備は主要メーカーだけでも数十社、型番を限らず見れば数千を超えるため、「何をファミリ化し、何を一般部品で済ませるか」の決め打ちが重要になります。

「全部を丁寧にファミリ化しよう」とすると、導入はもたないまま頑張り期が終わります。「よく使うものはファミリ化し、それ以外は簡易部品で代用」という割り切りができるかどうかが、導入の勝ち負けを分けます。

②モデルの「作り込み」の調整

2D CAD時代になかった「どこまでやるか」の議論が、BIMでは毎回発生します。接続部をどこまでモデリングするか、スリーブ・フレキシブル・サポートをどこまでモデルに載せるか——こうしたLOD設定を案件ごとに擦り合わせる工数が増えます。

この調整を毎回ゼロからやるとコストは重くなるため、「自社の標準LODを案件タイプ別に持っておく」ことが、中期的にこの工数を下げるレバーになります。

③意匠BIM・他者BIMとの整合作業

意匠・構造とのモデル整合、サブコン・ゼネコンの施工BIMとの連携は、BIMならではの作業です。

2D CAD時代は「許容誤差はその場で説明して話を進める」というやり取りで成り立っていたものが、BIMでは「モデルとして整合させる」ことが求められるため、見えにくい調整作業が増えるケースがあります。「口頭で話し合う」より「モデルで噛み合わせる」方がコストが掛かる、という逆転も起き得ます。

④メーカー部品データの取り寄せとメンテナンス

メーカー提供のRevitファミリやRebro部品データを読み込んで調整する作業も、定期的に発生します。型番としては同じでも、モデル仕様がメーカー・バージョンごとに違い、それぞれに調整が必要になるためです。

「ファミリを面倒見る担当」が事務所に必要になるのもBIM時代の特徴です。ここを「誰かがついでにやる」と位置づけてしまうと、誰もメンテナンスしないファミリ資産が散らかった状態で溜まっていきます。

結果として、工数はどうなるのか

立ち上げ期(1〜2案件目):明らかに増える

テンプレート未整備・ファミリ未整備・操作スキル未熟という三重苦が重なるため、1案件目は従来比で1.5〜2倍の工数になることも珍しくありません。

この状態を「担当者のスキル不足」と誤認識してしまうと、BIM推進担当者が孤立し、導入そのものが立ち上げ期で止まってしまうケースがあります。ここは「立ち上げ期間、工数は増える」という前提を経営レベルで合意しておくべきポイントです。

安定期(3〜5案件目以降):同等〜一部は減る

テンプレート・ファミリがそこそこ揃い、操作スキルもこなれてくると、平均で見て2D CADと同等、ケースによっては1割程度減る、というところまで来ます。

ここで押さえておきたいのは、「大幅に減るわけではない」という事実です。「BIM=工数半減」のような期待値で経営層を説得してしまうと、実際の成果が定量的に評価できず、「失敗だった」と判定されるリスクがあります。

工数に表れない「見えにくい価値」が増える

一方で、BIMにしたことで「工数としては表れない価値」は明らかに増えます。3Dでの説明資料、見積もり説明、他業種との整合、誤りの事前防止、現場での説明といった面で、従来とははっきり質の違うアウトプットが生まれます。

この部分を工数計算だけで捉えるとROIを大きく見誤ります。「受注の取れやすさ」「クレームの少なさ」「設計品質の信頼感」といった、長期的に受注力を支える要素の方が、インパクトが大きいケースもあります。

実務への落とし込み|「うちはどう考えるべきか」

工数を「平均」で見ず、「工程・案件ごと」で見る

BIM導入の効果を「年間平均で何割減」と一括で見ると、ぼやけた話になります。実務で使える会話にするには、「作図差し替え」「拾い」「修正対応」など工程ごと、そして「意匠変更が多い案件」「設備量が多い案件」など案件タイプごとで見る必要があります。

例えば「設計変更が多い改修案件」や「数量・見積説明のボリュームが大きい案件」はBIMメリットがひときわ大きく、逆に「設計変更がほぼない標準仕様案件」ではメリットが出にくい、という偏り方をします。この視点で「うちの案件構成にとってBIMはどこで効くのか」を見たほうが、ジャッジを誤りにくくなります。

BIMへの期待値を「ROI計画」に落とす

導入を進める際には、「そもそも工数の何割を、何年で、どの案件タイプで回収する計画なのか」を言語化しておくと、その後の意思決定がぶれません。「BIMをやるかやらないか」より、「どの案件で、いつまでに、何を実現するのか」を言語化できるかどうかが、中小事務所のBIM導入の成否を分けます。

まとめ|「楽になる」より「やることが変わる」

「BIMにしたら設計が楽になる」という期待は、実態と一致しません。より正確に言えば「やることとやり方が変わる」という表現が近い。作図・拾い・やり直しといった「手を動かす作業」は減り、テンプレート整備・モデル整合・他者との調整といった「人でなければできない作業」にシフトしていきます。

この「シフト」を、単なるコストダウンと見るのか、価値提供の重心の移動と見るのかで、BIM導入後の事務所の進化の方向が大きく変わります。「手を動かして設計する」事務所から、「設計・調整・説明の中で価値を出す」事務所へと、背骨が静かに変わっていきます。

パラダイムでは、「うちの場合、どの工程がどれくらい変わるのか」を、取り扱い案件・規模ごとに見積もるシミュレーションも可能です。「全面BIM化」ではなく「何を、いつまでに、どこまで」の計画から、お気軽にご相談ください。

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